« 又吉車掌奮戦記 第4夜 | トップページ | 駅員・松井寅次郎奮戦記 »

2015年11月29日 (日)

又吉車掌奮戦記 第5夜(最終話)

>又吉は強い口調で命じました。本来であれば車掌長に連絡して。その指示を仰ぐのが本来ですが時間がありません。
又吉は悩んでしまいました、さてこの結末は・・・・

 又吉は、一瞬躊躇しましたが、咄嗟に体が動いていました。
 男の前に立ちはだかったのです、男は一瞬立ち止まって。今度は反対方向に走り出しかけるのでした。
 又吉は、それよりも少しだけ早く駆け出して、相手に覆い被さるような形になりました。
 騒ぎを聞いて、野次馬もやって来ました、薄暗い車内で繰り広げられる捕り物帳になってしまいました。
 何とか、押さえつけることに成功した又吉は叫びました。
 「誰か、1等車にいる車掌に連絡していただけませんか。」

「よし、俺が行ってやろう。」
 中年の男性が、小走りに走っていってくれました。
 取り押さえられた男は、先ほどのように抵抗はしなくなりました、もうすっかり諦めたようです。
 しばらくすると、車掌長が先ほどの男性と一緒にやって来ました。
 ダブルの制服がよく似合う恰幅のいい「おじ様」という表現がぴったりきそうです。
 さて、又吉は車掌長に概要を説明すると、車掌長もうなずき、最後部の車掌室に連れて行くこととなりました。
 又吉が前に、車掌長が後ろから挟むような形で、歩いていったのです。

 狭い車掌室で、車掌長は話を聞いていました。
 婦人から財布を掏ろうとしただけでなく、この男は就寝中の男性の背広の内ポケットからも財布を盗んでいました。
男は、掏り及び置き引きについて素直に認めました、車掌長は、男を引き渡すべく途中の駅でパトカーを手配してもらうことにしました。
 無線とかない時代ですから、駅員がいる駅での対応と言うことになり、どうやら静岡駅で引き渡すことが出来そうです。
 車掌長は、男に乗車券を見せるように言いました。
 男はしばらくうつむいたまま何も言いませんでしたが、そのうちズボンのポケットから1枚の切符を出してきました・
 そこには、丸いスタンプで「救」の文字が記載されていました。

車掌長も、又吉も一瞬顔が曇りました。
この切符は、マル救切符と言って、生活保護者等生活困窮者が旅行する際発行される切符で通常運賃の半額となる切符でした。
 ただし、普通列車以外は利用できず、自動的に長距離鈍行と呼ばれる、普通列車などでは利用者が多くなると言うわけです。

 又吉は、気の毒としか思えませんでした。
 この人には、他に生きる道はなかったのであろうか??
 そして、また今回の窃盗事件では、犯罪者として裁かれるのであろうか。
・・・・「超特急ひかり」号に乗って、4時間ほどで東京~大阪まで移動する人もいる、なのに、この人のように、普通列車での移動を強いられて、それでいて途中下車して、それも人生の途中下車しなくてはいけない人がいる。

又吉は、少し暗い気持ちになってきたのだった。

そんな気持ちを察したのか、車掌長が又吉に話かける。

「人生そんな捨てたものじゃないぞ、人には10人十色の生き方がある、それを選択するのは自分自身なんだ。」
 「あの人は、今は敗北者かもしれない、でも、負けを負けと認めない限り、人生には敗北はないんだよ。」
 「又吉、おまえはまだ若い、これからどんどん勉強して、助役になり、駅長を目指すんだ。そして、人の痛みがわかるそんな立派な人になるんだよ。」

車掌長の目に涙が光っていました。
そして、万引きした男の目にも・・・・

小さな声で男が、呟きました。
 「ありがとうございます、きっと今度は真っ当に生きます。」

車掌長は、小さく頷いたのでした。
再び、3人の間には、列車の規則正しいジョイントの音だけが時間とともに流れていくのでした。

お終い。

・・・・・・・・・・・・・・・・
 なお、この話は後日談があるのですが、それはまた別の機会にでもお話したいと思います。

  又吉車掌奮戦記は、blackcatが創作した、フィクションです。Bitmap

« 又吉車掌奮戦記 第4夜 | トップページ | 駅員・松井寅次郎奮戦記 »

鉄道」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/2086385/62729933

この記事へのトラックバック一覧です: 又吉車掌奮戦記 第5夜(最終話):

« 又吉車掌奮戦記 第4夜 | トップページ | 駅員・松井寅次郎奮戦記 »

フォト
無料ブログはココログ
2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

Facebook 国鉄があった時代