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2017年1月29日 (日)

機関助士 佐倉一郎の思い出話 第11話

話が違う方向に行ってしまいましたが、そんなわけで混合列車も少なからず走っていたことから、佐倉君はC56で混合列車の助士を務めることとなったのですが、その辺のお話はまた来週以降にさせていただきます。

古巣の機関区に帰って来た佐倉君、機関助士としての最初をいよいよ繰り出すことになります。
佐倉君よりも先輩の庫内手もいました、彼らにしてみれば、後輩がさっさと庫内手から助士になってしまったのが憎くて仕方がありません。
しかし、それを言っても仕方ありませんから、遠くから見つめているだけでした、佐倉君にしてみればいよいよ、今までのような暑くて苦しい庫内作業から解放されたという安心感と、いよいよ機関車に乗れるという興奮とが一緒になって襲ってくるのでした。
初乗務の日は嬉しくて点呼の1時間も前から機関区に出勤してきた佐倉君でした。
Photo
それを目ざとく見つけたのは当直助役でした。
「佐倉くん。今日から乗務ですね。おめでとうございます。でも、まだ点呼まで1時間もありますよ。」
 「おはようございます、今日から乗務が嬉しくて・・・寮にいても落ち着かないので早めに来てしまいました。」
それを聞いてニコニコ顔の助役。
「佐倉くん、頑張ってくださいね、応援していますよ。」

そう言うと、事務室の方はすたすたと入っていくのでした。
やはり早く来ても、手持無沙汰な佐倉君、庫の方に足を向けるのでした。
先輩庫内手がロッド磨きや油を注しています。
それを見るともなく見つめていると、先輩庫内手のうち一番古参の庫内手が声を掛けます。
そう、綾瀬さんでした。
綾瀬さんは、佐倉君を見つけると、「佐倉、こんなところで何しているんだ。お前の職場はここじゃないぞ。」
わざときつく言って佐倉君を追い返そうとします。
 「こんにちは、綾瀬さん」
「おい。ここはお前の職場じゃないんだ、お前がいると邪魔なんだよ。帰れ。」
何時になく、きつくあたる綾瀬さんです。佐倉君には綾瀬さんに挨拶したかっただけに、ちょっと面食らってしまいます。
 「すみません、先輩にお礼が言いたくて・・・」
「はぁ?何言ってるんだ。俺はお前に礼を言われるようなこと何もしていないだろうが、仕事の邪魔するな、帰れ、帰れ・・・」
綾瀬さんは今にも襲い掛からんような剣幕でまくしたてます。
さすがにそれに驚いてしまった佐倉君、這う這うの体で退散するのでした。
でも、綾瀬さんの本心はどうだったのでしょうか。
実はとても嬉しかったのです。でも、敢えて辛く当たって佐倉君に早く機関助士の仕事に慣れてもらおうと思ってあんな態度を取ったのでした。
佐倉君の姿が見えなくなると、独り言のように。
良かったなぁ、佐倉。お前ならきっと立派な機関士になれる。親方にかわいがってもらって立派な機関士になれよ・・・。そうつぶやきつつ、目から暑い汗が出てくるのを抑えきれないのでした。
「くそ、今日は暑いな。汗が出て仕方がないで。」
周りに聞こえるように言うのでした。
周りの庫内手は何も言いません、もちろんそれが涙であることも、そして綾瀬さんが機関士を志望していたことも・・・みんな知っていますから。

みんな、綾瀬さんのことを思いながらも黙々と仕事を続けるのでした。

続く

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