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2017年9月24日 (日)

鉄道公安官 業務日誌第1話

みなさまこんにちは、しばらく開けてしまいましたが、国鉄時代には鉄道公安官と言う制度があり、鉄道施設内の警備警護や列車の警乗などで駅の治安を守っていたものです、国鉄が民営化されてそうした制度も無くなってしまいました。

国鉄線に実際に書かれていた公安物語をモチーフに、お話を膨らませてみたいと思います。
実話に基づくお話ですので脚色してアップさせてもらっております。

皆さまこんばんは、私は米田といいます、私が公安官時代に経験をお話させていただきます。
公安官という仕事をしておりますと、色々な事件などに巻き込まれるものです。
今回のお話は、昭和45年のお話です。
富山行き、急行立山4号でのお話なんです。(原記事では、505Mとなっていますが、昭和44年10月の時刻表も45年10月の時刻表も電車で、夜行運転は507Mしかなく、投稿者の勘違いと思われますので、507Mで書かせていただきます。

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事の始まりは、大阪発富山行きの立山4号の車掌からの申し出でした。
一緒に連れてきたのは十分出来上がった(酒に酔った)中年の男性でした。
車掌が簡単に状況を説明してくれました。

京都を出て大津から草津付近を走行中に列車が急停車、原因はこの男性が運転台に潜り込みパン下げスイッチを押したらしいと言う概要だけは聞き取ることができました。

そこで改めて、その中年の男性の取り調べを始めるのですが、この男性、酒が入って上機嫌であり列車から無理やり下ろされたのが不満で仕方がない様子。
そこで、私も相手を怒らせず何とか事実を引き出そうとするのですが、これが中々進まない。
自分は正しいことをしたのだから感謝してもらって当然である・・・の一点張り。
電車を止めたのは後方から列車が迫っていたからという・・・
むしろ、列車を止めては危ないでしょうと言うのですがこの男性、頑として聞き入れようとしない。

挙句の果てに事務室に掲げてある、「安全の綱領」を指さして、
ほら、あそこに

「疑わしいときは、手落ちなく考えて、もっとも安全と認められるみちを採らなければならない。 」

と書いているではないか、私のしたことは正しい事なんだから、このような扱いを受けるのは心外であるとしてなかなか話が始まらない、それでも何とかなだめすかして話を聞いていったものでした。

聞けば、この男性は中国地方の中学校の先生で、同僚8人と研修旅行で金沢に行く途中だったらしい、ところが域の車中で飲み過ぎてすっかり出来上がってしまい、大阪駅で乗換をするさいに他の先生と逸れてしまったそうだ。

酔った足取りでふらつきながら同僚の先生を探しながら歩いていると最後部まで来たらしい。
みると、後ろから電車のライトが、どんどん近づいてくるライトを見てこの先生、追突すると思い、無我夢中で電車を止めたんだと言う。

まぁ、その時に最後部に車掌が居れば良かったのだがあいにく車掌は不在で、乗務員室へのドアも開けってあったそうで、その先生、いきなり運転台のスイッチを片っ端から触ってみたそうです。

何かの拍子にパンタグラフの降下装置を押してしまったのでしょう。
車内は非常灯だけになり、列車は力行(スピードを上げること)が出来ず急停車、焦るのは乗客以上に車掌と運転士、手分けして車両の内外を点検しています。
ようやく、パンタグラフが下がっていることが判った次第。しかし、誰がパンタグラフを下ろしたのか。

今度は車掌は犯人探しをしなくてはなりません。
そこで、最後部受持ちの運転兼務車掌が戻ると、運転室内に中年の男性が座っているではないですか。

車掌は、「どうされましたか。」
と聞いたところ、

列車はちょうど、大津を過ぎたあたり、左手に琵琶湖の湖面が月夜に浮かび手前では車窓から漏れる光が青々と育つ田んぼの稲を映し出しています。
それが・・・

車掌が声をかけます。

「ここで何をされているのですか」

男は、酔っているとはいえ真面目な顔で。

「追突しそうだったので止めた」の一点張り、運転室内ではあらゆるスイッチを押したようです、やがて運転士が降下していたパンタグラフを上げたことで車内は明るさを取り戻し、15分遅れで米原に向けて動き出したのだそうです。
運転台の様子などから、この男性が電車を止めた張本人の様子、仕方なく米原で降りていただき、取り調べをすることにしたそうです。

そこで、先ほどの話になるのですが、かなりメートルが上がっていて、話がどうも前に進まないわけです。

「俺は電車が衝突するのを止めたんだ、何で、こんなところに連れてこられたんだ」挙句の果てには、だから国鉄が悪いんだ・・・よくわからない理由を並べ立てて一人で怒っています。

さすがに、これには、一緒に当直していた酒井公安官も持て余し気味
それでも、なだめすかしながら、少しづつ話を聞いてみると・・・
大阪駅で乗換の際に逸れてしまい、ホームの人混みの中を探すが見つからず、乗車すべき列車の発車時刻となったので慌てて飛び乗った次第と言っていました。

その後、何とかフラフラとしながら最後尾にたどり着いたら今度は電車のライトが追っかけてくるのでこれは追突と思ったと言うんです。

何度も、「後ろから迫ってくるんだったら電車止めちゃダメでしょう」・・・と言うのですが、学校の先生、教えるのは上手かも知れないが人の話を聞くのは苦手なようでなったくお話になりません。

それでも、次第に酔いも醒めてきた頃、

「あれ、ここはどこですか。」

同僚の酒井公安官が、「電車が衝突すると言ってあなたが電車を止めたんですよ」

と言われきょとんとした目をしています。
「あなたが後方から電車のライトが見えたから電車を急停車させたと・・・。」
ところが先生、酔いが醒めてまっとうな判断が出来るようになったのは良いのですが・・・。

「そんな、後ろから走ってくるんだったら電車なんか止めたらだめじゃないですか。誰ですか、そんな無茶なことをするのは。」

酒井公安官は苦笑しながら、「あなたが、電車を止めたんでしょう。」

「へ、(・_・)」

「あなたが、酔っ払って電車の運転台に入ったんですよ。」

そう言われて、何となく電車の運転台に入ったことを思い出す先生でした。

今度は先ほどまで赤い顔をしていた先生の顔から血の気が引いて諤々と震えだす始末・・・。

結局は、この先生悪気はなく善意の解釈からの行為であったとして厳重注意の上、早朝の急行くずりゅう1号で金沢に向かったそうですが、何とも人騒がせなお話ではありました。

なお、国鉄線昭和45年8月号の記事を参考に創作したお話です。

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